都市のテリトリー

 都市は単にそこに住む住民に対する役割だけではなく、広域にわたる役割がある。

 

(経済的中枢管理機能(支所)による主要都市のテリトリー(2000年))

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(出典:阿部和俊、山﨑 朗(2004)『変貌する日本の姿』古今書院(着色は筆者が加工))

 

 上記の表は、企業が国内の諸都市に置く「支所」がどのエリアを管轄するかを表したもので、調査時点は2000年である。具体的に言うと、例えば、仙台に置かれた支所のうち88.8%のものが青森県を管轄していることを示している。この表が示すものは、都市間の経済的に「管理する・管理される」の関係である。つまり、先の例でいうと、青森県仙台市の経済的管理下にある、すなわち仙台市の「支配域」(テリトリー)であるということだ。

 上の表では、その都市が所在する都道府県の値を赤く表示し、それを除いて最も高い値をオレンジ色で表示したものである。これを見ると各都市の支配域が見事にあぶり出される。

 このオレンジ色および赤色をその都市の支配域とすると、各都市の支配域は次のとおりである。(太字は赤色表示)

 札幌:北海道

◎仙台:青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島

 新潟:新潟

◎東京:北海道、宮城、茨木、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野

 横浜:神奈川

◎金沢:富山、石川、福井

◎富山:富山、石川

◎名古屋:岐阜、静岡、愛知、三重

 京都:京都

◎大阪:滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、広島、香川、福岡

 神戸:兵庫

◎高松:徳島、香川、愛媛、高知

◎広島:鳥取、島根、岡山、広島、山口

◎福岡:福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

 北九州:福岡

 

 この中で、自らの所在する都道府県以外の支配域を有するのは、仙台、東京、金沢、富山、名古屋、大阪、高松、広島、福岡の諸都市(◎の都市)である。これらはいわゆるブロック中心都市である。これに対して、自らの所在する都道府県のみを支配域とするものは、北海道、新潟、横浜、京都、神戸、北九州である。

 さらに、これらの諸都市間でも「管理する・管理される」の関係を読み取ることができる。その都市が属する都道府県(赤色)を支配域としている都市(オレンジ色)がある。この関係は、次の2都市に読み取ることができる。(大阪と名古屋にはこのような構図がないことに気づく。)

 

 東京:北海道、宮城、神奈川、新潟

 大阪:京都、兵庫、広島、香川、福岡

 

 つまり、東京と大阪は、大都市が属する道府県をも支配域とする構図を読み取ることができる。この2都市は、大都市の中で別格の「超広域都市」ということができる。東京は我が国の首都として、大阪は江戸時代以前の流通経済の中心都市として、我が国の東西の首都と言えるだろう。

 

 次に神戸について詳しく見てみよう。

 この表を見ると、神戸に置かれた支所は兵庫県のみを支配域とすることが多いということがわかるが、その一方で、それ程割合は高くはないが、かなり広域にわたって管轄域が広がっていることに気が付く。すなわち、神戸の管轄が及ぶ範囲は、

富山、石川、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知  の17府県に及ぶ。

 

 この値は、東京 29、大阪 29に続くもので、これは神戸の特徴と言ってよいだろう。神戸の管轄域が広域にわたるということの理由は、神戸がかつて、世界有数の国際貿易港を有する都市として栄えたことが関係するのかもしれない。神戸に設置されている神戸税関の管轄区域は、兵庫県以西の山口県を除く中国・四国地方全域(兵庫県鳥取県島根県岡山県広島県香川県愛媛県高知県徳島県)となっており、神戸の支配域が神戸税関の管轄区域と重なるところが大きいことからも、それが推測される。また、神戸は我が国有数の経済的中心地である関西圏にあり、関西圏が有する中枢機能を京都、大阪、神戸の3都市で分担しているといえるのかもしれない。

 

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 以上より、神戸はブロック中心都市ではないが単なる一地方都市でもなく、東京や大阪ほどではないものの、「超広域都市」としての性格も持っているといえるだろう。

 これらのことから、神戸が今後、どのような方向性をもって都市の発展を目指していくべきかを考えてみたい。

 一つには、神戸は関西圏という我が国有数の経済的文化的中心地の一翼を担う都市として、ブロックを超える超広域の高次の都市機能を担うべきだろう。それは、現在の、神戸港スーパーコンピューター「富岳」や医療産業都市、コンベンションセンターなどがこれに当たるだろう。将来的には、大規模アリーナなども設置したいところだ。

 二つ目は、決して緊密とは言えないが、現在有する経済的つながりのある地方との結び付きを維持強化することに努めるべきだろう。幾分でもつながりを持っているということはとても重要だ。現在でも神戸は長距離バス路線の西日本最大級の発着地の一つとなっているが、そもそもこれらのバス路線網が張り巡らされている背景には、神戸とそれらの地方との固定的な一定の人的な交流があるからだと考えられる。これらの路線網のさらなる充実強化を図るべきだ。その方策の一つとして、これらの経済的つながりのある都市の中心都市として、それらの都市のショーウインドウとしての役割を果たしてはどうだろうか。例えば、これらの諸都市の物産館の場を提供し誘致し、神戸からそれらの地方への観光を誘導するような機能である。神戸はそれらの地方と共存共栄を図らなければならない。それにより、神戸の超高域都市としての地位が高まるだろう。

 神戸はこれらの都市とバス路線の他、新幹線や航空機、フェリー航路などで結ばれているが、これらを相互につなぎ合わせる交通手段があれば、一層、広域の交通結節点としての機能が高まるだろう。それは、神戸だけの利益ではなく、これらの地方の人々の利益でもあるだろう。そういう意味からも、新神戸、三宮、神戸空港を結ぶ中央軸を構成する利便性の高い交通手段が必要だ。

 要するに、神戸の都市の成り立ち、性格をよく理解し、それを常に意識して、さらに機能の維持向上に努める必要があるということだ。