新型肺炎の流行について(24)

 水道料金の無料化は、ずいぶん悩みましたが、神戸市は行わないことにしました。阪神間の市がほとんど実施する中、厳しい批判は覚悟しています。しかし、無料化のために数十億円もの税金を投入するか、あるいは老朽管対策を先送りし料金負担を将来世代にツケ回すのは、いずれも適当でないと考えます。

久元喜造twitter 2020/6/12)

 久元神戸市長が、新型コロナウイルスの被害に対する経済対策として、検討していた水道料金の無料化を行わないことにしたと表明した。

 水道料金をはじめとする公共料金、場合によっては固定資産税などの税金を減免することは、今回のような場合の経済対策として行うことは有効な方法の一つであると考える。

 第一の理由は、公共料金は、ほぼすべての人がそれぞれの生活や活動水準に応じて負担するものであるから、多くの人に効果を及ぼすことができることである。第二の理由は、現金を支給することは、給付を受ける側の申請の手間、給付を行う側に膨大な事務を発生させ、迅速に対応することが難しい。このことは、今回の一人10万円の特別給付金が、現時点においても支給が完了した者が半数にも達していないことを(比較的処理が早いとされる神戸市においても、6月10日現在で給付率は16.4%)ことを考えると明らかだ。それに対して、料金を無料にすることは、発表をするだけで瞬時に効果を及ぼすことができるし、減免にかかる費用補填についても行政側から供給側である事業者にお金を振り替えればよいだけなので、きわめて簡単だ。

 このように、公共料金を、今回の経済的大混乱の救済の手段として利用することは、十分に検討に値することだと考える。

 「水道料金の無料化」を行わないことになった理由として、①税金を数十億円投入すること、②料金収入を将来世代にツケ回しすることの二つを挙げている。

 ここで、あえて問題を提起するとしたら、国や自治体は、財源から政策を判断すべきではないということだ。行政の役割は、経済合理性を追求することではない。むしろ、経済合理性に反してでも、国民の安全、福祉、社会全体の維持発展のために必要な施策を行うことだ。必要があると判断すれば、財源の有無にかかわらず、施策を行うべきだ。もちろん、一自治体としては財政のバランスを考えなければならないだろう。だからこそ、社会のアンカーたる国と連携して、その財政権を利用して施策を行う必要がある。

 今後、経済不況が進行していくことは間違いないだろう。なぜならば、今般の経済的インパクトに対応するため、今後、企業は、雇用を削減し、賃金を減らし、新規投資を減らそうとするからだ。それはさらなる景気の悪化の要因となる。また、国や自治体も、今後、税収の著しい減収に直面することになるだろう。しかし、ここで、減少した税収に合わせて、国や自治体が支出を削減すると、それがまた巨大な需要の減少となって景気悪化を招くことになる。もし、国や自治体が財政均衡の呪縛から逃れられないなら、今後著しい緊縮財政に陥るだろう。

 皆が同じ方向に走り、谷底へなだれ落ちようとするなら、あえてそれを引き戻すことが国や自治体に求められている役割だ。今直面している事態は、リーマンショックをもはるかに超えるといわれる経済的危機だ。考えるべきことは、自らの財政の均衡だけだろうか。行政は社会の経済循環の中でどのような役割を果たしているだろうか。市民は、行政に対して今何を求めているのだろうか。もう少し、広い視野をもって判断すれば結論は変わってくるだろう。