新型肺炎の流行について(17)

 5月8日、久元神戸市長が、臨時記者会見を開き、その中で次の施策を発表した。

新型コロナで困っている人を「ふるさと納税」で支援するため「ふるさと神戸ダブル応援基金」を創設します


 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の影響により、飲食店や観光事業者、文化芸術活動従事者をはじめ多くの方々の仕事や生活に甚大な影響が生じています。この状況に対して、神戸出身者をはじめとする神戸にゆかりのある方々から、多くの「支援の声」が寄せられています。
 そこで、多くの皆さまからの応援を困っている人々に届けるために、「ふるさと納税」の仕組みを活用した「ふるさと神戸ダブル応援基金」を創設します。
 この「ふるさと神戸ダブル応援基金」の特徴は、①支援対象を8つの幅広い分野から選択していただくことができるということと、②いただいた寄附と同額を神戸市が拠出することで、事業規模を2倍(ダブル)にして困っている人々にお届けするということです。

神戸市記者資料提供(令和2年5月8日)

神戸市:新型コロナで困っている人を「ふるさと納税」で支援するため「ふるさと神戸ダブル応援基金」を創設します

 

  今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界経済の大混乱を巻き起こしており、リーマンショックをはるかに超え、1920~30年代の世界大恐慌クラスの不況が懸念され始めている。

 米労働省が8日、4月の雇用統計を発表した。新型コロナウイルスによる経済危機で、非農業部門の就業者数(季節調整済み)が前月比2050万人減、失業率が14・7%と、いずれも戦後最悪の水準となった。戦前の大恐慌期に迫る雇用の急減が、米経済に長く爪痕を残し、日本にも波及するのは確実だ。

朝日新聞 2020/5/9)

 

 国内では、感染防止のための活動自粛が長期化し、営業ができず、収入の途絶えた事業者やその従業員が多数発生し、事業者に対する家賃や、従業員に対する賃金支払いの支援など一刻も早い対策が求められている。やるべきことは明確だが、財源の確保がネックになっている。その状況下において、神戸市がこの施策を行うのは妥当な判断なのだろうか。

 

 まず、新型コロナウイルスの影響で困っている人々を助けるという目的の施策のようだが、具体的にどのような使われ方をするのか何も書かれておらず、使途が明確でない。本当に、現在の緊急事態に必要な施策、直接的に救済に役立つ施策に使われるのだろうか。

 第2に、ふるさと納税制度に起因する問題である。ふるさと納税制度は、ある自治体に寄付を行うと、本来納税すべきであった住民税からその寄付に相当する額が控除され、寄付を行った本人にはほとんど負担が生じない仕組みとなっており、本来の納税先であった自治体の財源を奪う効果がある。コロナウイルスの問題は、全世界的、全国的な問題なのだから、阪神淡路大震災などの局地的な災害とは異なり、他の自治体でも同様に多数の困った人々が存在している。それを、積極的にPRをして、神戸市だけに財源を集めようとする発想は正しいのだろうか。コロナウイルス問題への対応は、他の自治体の税収を奪って行うべきことではない。こうした緊急時において、自治体間で財源を奪い合うのは無駄なことだ。もっとマクロ的な視点を持つべきだ。

 ちまたに、1人10万円の特別給付金を寄付したいとの声があるかもしれないが、それをふるさと納税として実施してしまうと、国内全体としてみれば寄付と同額の税収が失われることになり、国内全体の財源の確保という意味では、せっかくの寄付の意味がほとんど失われてしまう。これでは、善意の寄付を行おうという動きを掘り崩してしまうことになる。

 第3に、支援対象の分野を寄付を行う人の選択にゆだねることになるが、神戸市が同額を拠出して対象分野の支援を行うとあるので、今回のふるさと納税が増えれば増えるほど、神戸市は、自らの自由になる財源が減り、使途が制限されてしまうことになる。

 

 久元市長は、自らのtwitterで次のように述べている。

 本日「ふるさと神戸ダブル応援基金」を創設しました。神戸ゆかりの方から寄せられる多くの応援の声を形にするため、ふるさと納税の仕組みで飲食店や観光など各業界を応援します。寄附額と同額を神戸市が上乗せすることで倍にし、寄附者と市が気持ちを一つに支援していきます

久元喜造twitter(2020/05/18)

 結局、「寄付者と市が気持ちを一つに支援」という姿勢をアピールすることに主眼のある施策なのではないか。

 

 医療従事者のみなさんに感謝の気持ちを表すLightItBlue。昨晩BEKOBEモニュメントなど2回目のライトアップを行いました。大阪城、姫路城をはじめ全国に広がっていることを大変ありがたく感じています。外出自粛中ですので、報道やHPでご覧いただき、感謝の気持ちを多くの方と共有できればと思います。

久元喜造twitter(2020/04/23)

 どうも、花時計の笑顔の図柄といい、情緒的な施策が目につく。

 国や自治体は、国民や市民から与えられた権限や財源を使って、具体的な施策を行うことが役割で、最前線の対策にあたる当事者の立場のはずだ。感謝の気持ちを表し、応援するのが仕事ではないだろう。必要だと考えれば、寄付を集めることに注力するのではなく、自らの財源を充て、資源を動員すべきだ。寄附があれば支援するという性格の施策ではないはずだ。