新型肺炎の流行について

 久元市長が21日にtwitterに次のようなツイートを行った。

 

【ジタバタしても始まらない】

 結局、昨日の厚労省の見解は、イベントの主催者が判断するということのようですが、神戸市の行政活動は、現時点においては通常どおり展開し、行事、催事、イベントなども基本的には予定どおり実施することが適当と考えます。

 イベントなどの内容に応じ、感染予防策を講じたり関係者の意見を聴くことが必要となる場合もあるでしょうが、展望もないままに都市の活動を停滞させないようにすることが必要です。もちろん今後の状況の激変に応じ、対応を変えることがあり得ることは当然です。

 

 そこに述べられている厚生労働省の見解とは次のメッセージのことと思われる。

 
イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ
令和2年2月20日
 
 新型コロナウイルスの感染の拡大を防ぐためには、今が重要な時期であり、国民や事業主の皆様方のご協力をお願いいたします。 
 最新の感染の発生状況を踏まえると、例えば屋内などで、お互いの距離が十分にとれない状況で一定時間いることが、感染のリスクを高めるとされています。
 イベント等の主催者においては、感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。なお、イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません。(太字は原文どおり)(以下省略)

イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ

 

 今回の新型コロナウイルスについて、WHOの見解が報じられている。

 新型コロナウイルスによる肺炎について、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は17日、記者会見し、致死率は2%として「重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)ほど致命的ではない」との見解を示した。
  中国政府が明らかにした中国国内の感染者約4万4千人のデータの調査結果を引用して述べた。
  この調査は中国の専門家チームによるもの。致死率は年代が上がるほど高くなり、40代以下で1%未満だったのに対し、50代1・3%、60代3・6%、70代8%、80歳以上で14・8%だった。
 8割は軽症だったが、呼吸困難になるなどの重症になる例が約14%、呼吸不全や多臓器不全などのある重篤例は約5%だったという。流行地の武漢のある湖北省は2・9%で、湖北省を除く地域では0・4%だった。

朝日新聞 2020/2/18)

 

 今回の新型コロナウイルスの特徴を見てみよう。

(1)きわめて感染力が強い。

(2)感染者の容態は、8割は軽症だったが、重症以上となるものが2割を占め、重篤となるものが5%であった。致死率は2%。

 

 以上を見ると、決して楽観を許すものではないように思える。致死率2%というと小さな値のようにも見えるが、強力な感染力を持ち、仮に100万人が感染するとすれば2万人の死者という計算になる。なによりも、まだまだわからないことが多く、治療薬もなく、検査態勢が全く追いつかない状態である。市中ではマスクの入手すらできない状況となっている。その中で、最大の対策は「感染者をできるかぎり発生させない」ということに尽きる。我が国の医療は高度の水準にあり、中国のようにはならないというのかもしれないが、それにしても大量に感染者が発生してしまうと、医療の供給能力をはるかに超過してしまうことも考えられる。これがもっとも恐るべき事態だ。

 こうした状況があるからこそ、厚生労働省もイベントの「開催の必要性を改めて検討」するように要請をしているのだと考えられる。

 これに対して、その翌日に神戸市長がtwitterで、厚労省の見解は、イベントの開催は「主催者が判断するということ」として、「行事、催事、イベントなども基本的には予定どおり実施することが適当」と述べた。しかし、これは、厚生労働省のメッセージの趣旨に合致しているのだろうか。

 「展望もないままに都市の活動を停滞させないようにすることが必要」としているが、単なる可能性の世界ではなく、国内の状況を見ると、市内での感染者の発生も十分に予想される状況なのではないのだろうか。仮に、感染者が市内に発生したら、神戸市はどのような対応をとるつもりなのだろう。やはりイベント中止を要請することになるのではないのだろうか。それが十分予想できる、このタイミングで、このツイートをする理由がわからない。しかも、神戸市長としての見解でもなく。

 さらに、「ジタバタしても始まらない」というタイトルはなんだろうか。大阪市や東京都は、早速にイベントの中止を打ち出している。これは、「ジタバタ」しているわけではなく、合理的な、責任のある行動である。こうした表現を用いなくても、市民に冷静な行動を呼びかけ、個人個人でできる予防策を呼びかける内容のメッセージもありえたのではないだろうか。この状況で、この表現を用いる理由がわからない。現下では、少しでも感染を防ぐために、人々の接触をできるかぎり減らすということは合理的な行動だ。「ジタバタしてもはじまらない」とは、運を天にまかせようということだろうか。

 都市の経済活動は、正常な市民生活があってこそだ。基礎的な生活の維持に努めるのは当然であるが、今は、市民の健康・生命を第一に考えるべき時だ。二兎を追うような方針は適切ではない。その上で、当然に生じるであろう経済活動への影響に対しては、行政はしっかりと予想して対策を講じるべきだ。