阪急西宮ガーデンズと神戸への影響

 阪急西宮ガーデンズは、阪急西宮スタジアム跡地の再開発として建設され、2008年(平成20年)11月にグランドオープンした大型商業施設である。

 店舗数は260を超え、商業施設面積だけで70,000㎡もある。核テナントは、阪急百貨店(25,000㎡)、シネマコンプレックスであるTOHOシネマズ西宮OS(12スクリーン 20,000㎡)とイズミヤ(10,000㎡)である。施設は中央部に駐車場を配置し、駐車場の周囲をショッピングモールが取り囲んでいる。1周で約450メートル、東西南北4つのモールから成るサーキット型の設計となっている。4階には屋上庭園「スカイガーデン」(9,000㎡)がある。駐車場は約3,000台分設置されている。

 ガーデンズの特徴は、なんといっても阪急電鉄の結節点である西宮北口に隣接する立地条件の良さだ。西宮北口は、阪急神戸線の梅田と三宮のほぼ中間地点にあり、そこに今津線が交差し宝塚、川西等の阪神北部との交通結節点となっている。その駅からデッキで直接結ばれ、そこにはムーヴィングウォークまで設置されている。

 全館の売上高は年々増加し、最近では800億円を超えていると聞く。

 一方、大丸神戸店の売上高が824億円(2018年2月期)、そごう神戸店が470億円弱だったので、ガーデンズの売上高の巨大さがわかる。

 また、神戸にはなく、ガーデンズにのみ出店しているような店舗もある。

 西宮市は最近、住みたい街として人気が高まっているが、このガーデンズの存在は大きいだろう。

 

 ガーデンズの強みは、次の点が挙げられる。

(1)阪神間阪神北部の住民にとって神戸よりも交通の面で便利であること。

(2)施設そのものの利便性の高さと快適さ。通路を広くとり、ワンフロアが広く、エスカレーターで上下の移動が楽だ。また、屋内にあるので全天候で歩きやすい。建物の構造がサーキット状となっているため、通常であれば一方向へ人が流れ去るところが、人が自然に回遊し、対流する形となっている。

(3)複合型の施設であること。専門店だけでなく、百貨店・スーパー、シネマ、フードコートなど、なんでも1カ所にそろっており、半日、その中で時間を費やすことができる。

 一方、ガーデンズの弱みは、

(1)飲食店の数と多様性の少なさ。飲食店の数と多様性においては、神戸の方が圧倒的に充実している。

(2)屋内型の人工的な環境であること。これは、その強みの反面であるが、屋内にあるため、天候や季節が感じられず、また商業施設以外のものが存在しないため、ある意味、単調な印象を免れない。

(3)新幹線駅や空港からは離れており、近隣からは便利だが、長距離からの来訪はそれほど便利ではない。

(4)商品が日常生活品が中心で、超高級のブランド品は見当たらないこと。

 近年の神戸都心の商業の低迷は、このガーデンズの影響が大きいだろう。その影響とは、一つには阪神間からの神戸への来訪客の減少である。ガーデンズは、これまで神戸の重要な商圏であったところに、ちょうど蓋をするような位置にあり、神戸への流動の「関門」となっているのだ。もう一つは、神戸市東部のガーデンズへの需要の漏出である。実際に、かなりの需要がガーデンズに流出していると推測する。神戸の都心の復権のためには、まず、このガーデンズに負けない商業集積をつくらなければならない。しかし、阪神間阪神北部の住民を、このガーデンズの快適さの囲いから抜け出させ、再び神戸に来訪させるには、神戸の商業施設のリニューアルと同時に、かなりの内容の高度化・充実がなければ困難だろう。これまで、神戸は兵庫県下では圧倒的な商業集積を誇ってきた。しかしガーデンズの存在は、神戸の圧倒的地位を脅かすようになっている。神戸側としては、相当に強い危機感を持つ必要がある。