大衆向け文化・音楽の振興

 神戸市は、観光政策を進めているが、主たる舞台で堂々と勝負をすることを避け、すきま分野を狙うかのようで、どうも微妙な施策ばかりだ。「ジャズの街神戸」の推進も、その一例だ。

 一般社団法人日本レコード協会が発表した「2015年度音楽メディアユーザー実態調査」https://www.riaj.or.jp/f/pdf/report/mediauser/softuser2015.pdf によると、「普段よく聴く音楽ジャンル(年代別)」を見ると、30代以下の若い世代の支持を集めている分野は、ポップス、ロック、ダンスミュージックであり、こちらが80%以上の支持を集めているのに対して、神戸市が特化しようとしているジャズは10%にも満たない支持率だ。また、久元市長が好むクラシックにしても20%弱程度の支持率だ。調査では、ジャズやクラシックに対する支持が多いのは60歳以上の世代である。神戸市は「若者に選ばれるまち」を目標にしながら、どうして、このような選択をするのだろうか。どうして真っ正面から、多くの人々から支持されている分野で勝負しようとしないのだろうか不思議に思う。三宮の地下街を歩くと、ジャズ風の唱歌がBGMに流されていて、これだけでも街の活気が失われている印象を受ける。

 久元市長は、趣味が「高尚」で、クラシックやジャズなどには関心があるようだが、いわゆる大衆文化や娯楽に関心が乏しいように思う。しかし、現在の大衆文化がどれほどの激しい競争の中から生み出されてきているか、どれほど多くの過去の文化的蓄積や創意工夫を背負っているか、もっと評価をすべきではないだろうか。大衆が好むものは決して価値が低いというわけではなく、多くの人から支持されるのは、むしろ、本来的に極めて困難なことであり、天才にしてなせる技なのだ。その点をもっと理解し、そうした文化が神戸市で花開くよう、施策を進める必要がある。

 神戸は、高度な芸術を極める場所ではなく、むしろ、強力な交通網を活かした、大衆向け音楽や文化の舞台としての利用を促進すべきだと考える。なぜならば、神戸自身が、そもそも実用的な実利実学指向の街であって、抽象論を好む学術文化の街ではないからだ。それは、ある種、健全な勤労者の価値観を背景とする神戸の特徴なのだ。