迷走する神戸市政

 久元神戸市長は5月30日の定例記者会見で、神戸市の人口が川崎市の人口を下回ったことについて、東京への「一極集中の1つの表れ」だと分析し、「東京発の情報がどんどん増え続けていて、地方は東京のマスメディアから、ないがしろにされているのではないか」と東京のマスメディアを批判した。

 同じく会見の中で、神戸市の外郭団体の1つである神戸新交通で労組幹部に不正な給与が支払われていたのが明らかになったことを受けて、「宮崎辰雄神戸市政の負の遺産を一掃しなければいけない」と述べ、外郭団体の経営監督の強化について検討に入ったことを明らかにした。

 これ以前にも、神戸市役所の「ヤミ専従問題」に端を発する、市役所組織の慣行の見直し、市役所改革、働き方改革など、関心が政策そのものから外れ、それを行う組織や周辺に対して批判を強め、改革を求める傾向が強まっているように感じる。

 問題があれば正すのは当然であるが、前向きなメッセージが伝わらない中で、こうした問題の処理ばかりが前面に出てくるのでは、自ら神戸市に対するネガティブキャンペーンをやっているようなものだ。久元市長は、神戸市民を勇気づけ、神戸の目指すべき将来像などの展望を、もっと力強く発信することにこそ力を注ぐべきだ。ところが、パフォーマンスはしたくないなどの理由でこれを行っていない。メッセージを発することは、上手さ、スマートさとかいうこととは、あまり関係がない。人を動かすのは、訴える中身と熱意の問題なのだ。久元市長は神戸を「グレードの高いまち」にするというが、具体的にはどんな中身かさっぱりわからない。具体的な中身がわからなければ、市民や民間が力を結集しようもない。

 先日、3空港懇談会で規制緩和が認められたが、市長のブログには、それについてなんらコメントがされることなく、「地方選挙の低投票率の背景」という連載が延々と掲載され続けている。こうした状況に、兵庫県知事からは、記者会見で、神戸市に対して、「関西3空港懇談会の取りまとめを受けて、神戸空港を、今後どういう形で展開していくのかという点についてはぜひお聞かせいただきたい。」、「受入環境をどう整備していくかということも関連するので、シナリオ化していかないといけないのではないかという提案をきちっとするとともに、考え方も確認したい」と言われる始末だ。

 神戸市は、人口で福岡市、川崎市にあいついで逆転され、三宮再開発も形が見えず、インバウンドに沸く京都、大阪はもとより、周辺市町村に対しても人口流出が続くなど、久元市長になって事態が改善されるどころか、事態の悪化、市政の停滞が誰にも感じられるようになってきている。この事態悪化や停滞の原因が、市役所組織や東京のマスコミなどに求められ、やり玉に挙げられるようになってきているのではないか。仕事が前に進まないのは、市の行政組織のせい、先の市長の「負の遺産」、人口が減るのは東京一極集中、マスメディアのせい。市長はそのような幻影に対して戦うことに血道を上げる余裕はないはずだ。やるべき課題が多々あるにもかかわらず、他の問題にのめり込むのは、それらの課題の解決ができないという自己表明で、つまり限界の露呈なのだと考える。